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大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)293号 決定 1960年9月30日

抗告人 照繁造

相手方 藤原真二

主文

原決定を取消す。

理由

本件抗告理由は末尾添付抗告の理由と題する書面記載のとおりである。

よつて考えるに、民事の上告事件において上告人の提出した上告理由の記載が最高裁判所規則の定める方式に従つていないときは原裁判所は決定で上告を却下すべきものであるから右上告理由の記載が所定の方式に従つているか否かは勿論原裁判所の調査事項である、然しながら原裁判所の調査し得る範囲は極めて形式的な事項に限られるものであつて、記載の内容に立ち入つてその当否を判断することはもとより一応尤もらしく書かれているかどうかをも審査する権限はないものである。ところで民事訴訟規則第四六条によると、上告の理由の記載は憲法その他の法令及びこれに違背する事由を示していなければならない。右法令を示すには法令の条項又は内容を掲記しなければならないと規定しているから、上告理由としてかくかくの理由により原裁判は法令第何条に違背するものであると記載しているものと認められる以上、たとえ全く見当違のことを記載していても上告理由の記載としてその形式を満たしているのであつて、原裁判所としては事件を上告裁判所に送付すべきものである。のみならず民事訴訟法第三九九条の三によると原裁判所が決定をもつて上告を却下し得る場合に該当するときは上告裁判所は口頭弁論を経ずに上告却下の判決をなし得るのであるからもし上告理由の記載が所要の形式に適合しているかどうか疑わしいような場合には原裁判所としては事件を上告裁判所に送付して此の点の判定を上告裁判所にまかせるのがむしろ妥当な措置と考える。本件について観るに前掲上告事件について抗告人の提出した上告状中の上告の理由、昭和三四年五月二三日付上告理由書並びに原裁判所の補正命令に基く同年六月二五日付上告理由書に記載するところは区々で上告理由の記載として適当でない部分も多いが要するに、被上告人が上告人の所有権を侵害しているのに被上告人を勝訴せしめた原判決は上告人の所有権を侵害するもので憲法第二九条第一項に違背するものであるとの趣旨を記載しているものと認められるから前示上告理由の記載としての形式を一応整えているものというべきである。従つて原裁判所は事件を上告裁判所に送付すべきであつて却下決定をしたのは失当という外はない。

よつて原決定を取り消すこととし主文のとおり決定する。

(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)

抗告の理由

一、本件抗告人が昭和三四年五月二三日提出した神戸地方裁判所昭和三二年(レ)第一九二号仮処分申請控訴事件に対する上告状のその理由書に

原判決は憲法第二九条第一項に違背して為された判決されたものでしかも同条第一項に違背する事由を列挙して記載されているのに拘らず神戸地方裁判所は

更に昭和三四年六月一三日抗告人に対し前記違憲事由の補正命令を抗告人に命じ抗告人はそこで同補正命令に基いてその期間中に違背の追加上告理由書を提出したのであるが同裁判所は上告理由書の欠缺がないものとして上告を不適法として却下したのであるが抗告人は該決定は甚だ不当であるから茲に即時抗告をいたします。

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